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山口地方裁判所 昭和24年(行)6号 判決

原告 池田実誠

被告 山口県農地委員会

一、主  文

山口縣厚狹郡吉田村農地委員会が同縣同郡同村大字吉田字中尾四四二番地田四反二十二歩外四畝二十八歩畦畔につき定めた賣渡計画に関する原告の訴願に対し被告のなした昭和二十三年十二月三日附の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求原因として山口縣厚狹郡吉田村大字吉田字中尾四四二番地所在の田四反二十二歩外四畝二十八歩畦畔はかつて訴外中野キヨの所有していたところで、原告の先代はこれを昭和九年頃より賃借し先代の沒後原告が引続きこれを耕作してきたのであるが、訴外吉田村農地委員会は右田地をいわゆる不在地主の所有する小作地なりとして買收計画を立てたので、原告はその買受の申込をなしたところ、右委員会は昭和二十三年七月十五日本件田地を訴外伯野春一に賣渡す旨の計画を立てたそこで原告はこれに対し異議申立をなしたが却下されたので、原告は更に被告に対し訴願を申立てたところ、被告は昭和二十三年十二月三日原告の訴願は相立たざる旨の裁決をなし、該裁決は翌二十四年一月二十四日原告宛送達されたのである。併しながら右訴外委員会の却下の決定、したがつて該決定を認容してなされた被告の右裁決は次の二点を看過した違法がある。即ち(イ)右訴外伯野春一は右賣渡計画樹立当時既に同人の居村吉田村の法定保有面積二町三反を超過する二町三反八畝四歩の田畑の所有者であり、その所有田畑の一部を耕作可能であるにかかわらず荒蕪地として放任し(この点から同人は農耕に精進する者とはいい難い)右田地の賣渡を受けんがためか該荒蕪地を山林に地目変更し、更に後に至つて即ち昭和二十三年十月二日その所有田畑中田三反七畝二十八歩をいわゆる認定買收されている者である。換言すれば何等特別の事由がないのにかかわらず、前記委員会は法定保有面積以上の田畑を所有する同人に、更に本件田地を賣渡した点において違法がある。次に(ロ)原告は本件田地の買收計画樹立当時該田地の正当なる賃借権者である。なる程原告は昭和十九年十月右訴外人伯野に対し、同年度の麦作に限り耕作せしめることとし、本件田地を一時轉貸したことはあるが、轉貸するにいたつた事情はその頃原告は警備召集の待命を受け、更に昭和十九年八月以降は事実毎月およそ十四、五日間の出動を命ぜられたのみならず、当時の情勢下においては何時本來の召集を受けるかも予測し得ない事情にあつたし、またその期間も相当長期に亘ることが予想されたためであり、決して農業に熱意を欠き農耕を放擲したがためではない。現に原告は翌二十年五月右訴外人に対し麦の取入後は直ちに本件田地を返還してくれるよう請求したのであるが、同訴外人は言を左右にしてこれに應じなかつたものである。即ち同訴外人は前記賣渡計画樹立当時迄不法に本件田地を耕作していたに過ぎないのであるから、原告は本件買收農地の買受人として第一順位にあるものである。しからばこれを右訴外人に賣渡す旨の前記計画は違法であると陳述し、被告の主張に対し、原告が訴外磯部鉄工所に勤務した事実は認めるが、その経緯は同工場は原告の居村吉田村にあり自宅からの通勤も可能で、また軍需工場であつたためここに勤務すれば應召を免れる可能性も多く、且つ農繁期には休暇を貰う約束でもあつたがためであり、決して農耕えの熱意を失つたためではない。また昭和十九年度の小作料については同年度は非常な旱魃であつたため同村一般の慣行に從い小作料の減額を請求し、訴外中野キヨもこれを承諾したのであると述べた他、その余の事実はすべて否認すると附陳し、以上の理由により被告の前記裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告の主張事実中原告主張の田地がかつて訴外中野キヨの所有していたところで原告の先代がこれを昭和九年頃より賃借し、先代の沒後原告が引続きこれを耕作してきたこと、原告主張の頃原告が本件田地を訴外伯野春一に耕作せしめたこと、訴外吉田村農地委員会が本件田地の買收計画を立て次いで原告主張の頃その主張するような賣渡計画を立てたことおよび、その頃訴外伯野が原告主張の如き面積の田畑を所有していたこと、原告主張の頃同訴外人所有の原告主張の田地が認定買收されたこと、ならびに原告主張の頃原告の訴願に対し被告はその主張するような裁決をなし、これを原告主張の頃原告宛送達したこと、以上の点はこれを認めるがその余の事実は否認する。なる程原告の主張するように右訴外人は前記買收計画樹立当時、同人の居村吉田村の法定保有面積を超過し、二町三反八畝四歩の田畑を所有していたが、それは公簿上のことで現実に耕作しうる田畑は右のうち一町九反六畝十歩に過ぎず他は荒蕪地で耕作不能の土地であり、右の耕作可能の田畑に本件田地を加算すれば二町三反七畝二歩となるが、これは自作農創設特別措置法施行令第十五條第四項に規定する特別の事由のある場合に該当する。仮りに耕作面積の問題に違法な点があるとしても、原告主張の頃、右訴外人所有の田畑中田地三反七畝二十八歩は認定買收され、現在同人の耕作面積は法定保有面積内であるから、その違法はのちに治癒されたものと解すべきであり、また原告は警備召集を受け待命員となつたため、本件田地を右訴外人に轉貸した旨主張するが警備召集の目的は非常事態に備えながら、国民の労働力を国内産業にも振り向けんとするいわゆる一石二鳥の構想であるから、警備召集の待命をもつて耕作不可能の理由とするのは当らない。現に農業に経驗の浅い原告は農耕を放擲して、昭和十九年十二月から翌二十年十月にいたる間訴外磯部鉄工所に勤務している点からみるも原告は農業に熱意を欠く者であつて本件田地の買受人としては不適当な者である。

更に原告は本件田地を右訴外人に轉貸するに当り訴外中野キヨの承諾を得て居らないのみならず、原告は昭和十九年より右訴外中野に小作料を支拂つて居らない。したがつて訴外中野は原告との前記賃貸借契約を解除し、昭和二十年四月九日訴外伯野を直接本件田地につき期間の定めのない小作契約を結んだのであるから、訴外吉田村農地委員会が本件田地の買收計画を樹立した当時眞実本件農地を賃借し耕作していた者は訴外伯野であつて原告ではない。結局本件田地の賣渡計画は適法になされたものであり、したがつて原告の前記訴願に対する被告の前記裁決も亦何等責むべき点はない。したがつて原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

本件係爭の目的となつている山口縣厚狹郡吉田村大字吉田字中尾四四二番地所在の田四反二十二歩外四畝二十八歩畦畔はかつて訴外中野キヨの所有していたところで原告の先代がこれを昭和九年頃より賃借し、先代の沒後原告が引続きこれを耕作してきたこと、訴外吉田村農地委員会が本件田地につき買收計画を立て、次いで昭和二十三年七月十五日これを訴外伯野春一に賣渡す旨の計画を樹立したこと、原告はこの計画に対し右訴外委員会に異議を申し立てたが却下されたため、更に被告に対し訴願を申し立てたところ、昭和二十三年十二月三日被告は原告の訴願は相立たない旨の裁決をなし、該裁決が翌二十四年一月二十四日原告宛送達されたことは孰れも当事者間に爭いのない事実である。そこで問題は右賣渡計画が適法になされたか否かに繋つてくるのでこの点について審究すべきである。先づ(一)原告側の事情について考えてみると、成立に爭いのない甲第三、第五、第九号各証中の記載に証人重兼吟一、吉岡輝勇、井上英雄、伊藤一郎、岡崎孫一の各証言と原告本人訊問の結果とを綜合すれば、原告は昭和十九年十月および十一月に警備召集の待命を受け、農耕に專念出來ない状態にあつたため、昭和十九年の麦作を限り本件田地を前記訴外伯野に轉貸した事実、原告中野間の小作契約は適式に解約されたことのない事実、昭和二十年春右田地の返還を同人に対し請求したが同人は之に應ぜず、それがため原告がその耕作をすることができなかつた事実、本件買收田地につき原告外二、三名の買受申込人のあつた事実および原告は役牛、脱穀機その他の農具を所有する專業農家であり、原告夫婦は現在の耕作面積以上を耕作し得る労働力を有し、且つ本件田地の賣渡計画樹立当時農業に精進する熱意を有していた事実が認められる。次に(二)訴外伯野春一の側の事情について考えてみると、同訴外人が右賣渡計画樹立当時、その居村吉田村の法定保有面積を超える農地を所有していたこと、その後昭和二十三年十月二日にその所有田畑中田三反七畝二十八歩が認定買收されたことは孰れも被告の認めるところであり、成立に爭いのない甲第八乃至第十号各証中の記載に証人重兼吟一、井上英雄、古林常太、岡崎孫一の各証言を綜合すれば、同訴外人は同人所有の田畑の一部を耕作が可能であるにかかわらず之を荒蕪地として放任し、昭和二十一年三、四月その所有田畑中の三筆を山林に地目変更している事実が認められる。もつとも証人中野キヨ、伯野春一、増田順一、植田亀治の各証言中右認定に牴触するような証言があるが、これは前に掲げた諸証拠と対比すれば、到底そのまま信用することはできないし、他に以上の認定を覆すに足る証拠は何も提出されていない。前記訴外委員会において本件田地の買收計画樹立当時現実にこれを耕作していた者は前記訴外伯野であつて、原告はそれ以前に本件田地を同人に轉貸していた点、昭和二十年四月右伯野、訴外中野キヨの間に期間の定のない賃貸借契約が結ばれたとの点に重きを置き、買受人として右伯野を指定したことは成立に爭いのない乙第一号証中の記載、証人増田順一、植田亀治の各証言を綜合して認めることができるが、他に耕作面積制限排除に関する特別の事由があつたとの事実については何の証拠はないのみならず、その後訴外伯野の農地が認定買收されたことは、本件賣渡計画樹立当時の同人の耕作面積に毫も関係のないところである。自作農創設特別措置法同法施行令等今次農地改革に関する一連の立法の趣旨は農家の生計の維持、農地の民主化農業生産力の増進にあることは明らかでありかかる目的達成のためには農地委員会としては前段認定の如く買收農地につき買受申込人が数名あるときは、各買受申込人の実情を種々の観点から愼重に調査審議し諸般の事情を勘案して、その何れに賣渡すべきかを決定すべきである。前段認定の原告、訴外伯野両名の事情を比較考究するとき他に考慮すべき特別の事由がないのにかかわらず、前記法定保有面積以上の農地を有する右訴外人に更に本件田地を賣渡す旨の前記訴外委員会の右計画は妥当を欠くものと認めるの他なく、したがつて被告の前記裁決も亦事実の誤認もしくは右法律の精神を誤解した違法のものだから、その余の点について判断するまでもなく、これを取消すこととし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟特例法第一條民事訴訟法第八十九條に則り主文の通り判決する。

(裁判官 御園生忠男 黒川四海 住吉君彦)

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